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【主体的に生きるってどういうこと?】/柚木麻子『BUTTER』レビュー



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主体的に生きるって結構難しいことです。

 

 

自分がやりたいことよりもやらなくちゃいけないことが多くなって、言いたいことよりも、その場の空気を読んで当たり障りのない発言が増えていって

 

いつしか自分がいまなにを食べたいと思っているのかさえ分からなくなってしまうような

 

子どものときは「あれがどうしても欲しい」「これは食べたくない」「この洋服が着たい」と欲求をたくさんもっていたはずなのに

 

わたしはこの本は主体的に生きることを読者に問う物語だと思っています

 

 

あらすじ

この柚木麻子さんのBUTTERという小説は簡単に言えば

首都圏連続不審死事件の被告人、梶井真奈子という人物に週刊誌の女性記者・里佳が密着取材して、事件の背景や人物像に迫っていく物語です。

 

この本を読むと、梶井真奈子という人物を通して自分の欲望に忠実に生きること、その意味を考えます。

 

 

食への欲求

この本の魅力は第一に食への欲求を再確認させられることです。

 

誰しもお腹がすいたらなにか食べたいと思いますしそれが普通ですが、今自分がなにを食べたいのか真剣に向き合って食べ物を選んでいる人は少ないと思います。

 

梶井真奈子は料理上手と言われ、手料理で男たちをもてなすことが得意でした。

 

主人公の週刊誌記者、里佳はスレンダーな美人で、もともと食への関心はそこまでありませんでしたが、梶井と接することによって食の素晴らしさに目覚めます。

 

作中で特に印象的だったのが高級なバターを使って作るほかほかのじゃがバターです。

 

梶井は手の込んだ料理ばかり好んだわけではなく、自分が好きだと思ったものはバターにもラーメンにも全力で向き合います。

 

『たったこれだけのことで、今までにはなかった満ち足りた気持ちが味わえる。食べたいものを自分で作って好きなように食べる。これを豊かさと呼ぶのではないか。これまでは、何が食べたいかさえ、よくわからなかったのに』

 

食べること、料理をすること。日常の中に実は至高の喜びが詰まっているんだと改めて思います。

 

愛情への欲求

 

梶井は世間一般でいう美人ではありませんでしたが、多くの男たちが彼女を求め、貢ぎ、死にました。

 

彼女は美人じゃないとか太っているとかいうことをマイナスにとらえず、男性たちにも尽くして尽くして尽くしまくります。

 

女性は若くて美しければ、勝手に男から口説いてきて、幸せにしてもらえるなんていう受動的な考えはありません。

 

里佳の親友の言葉が刺さります。

 

『ねえ、どうして、誰かが現れて求めてくれないと、恋はできないって思うの?』

『どうして、異性から選ばれないと、関係が始まらないって思うの?どうして選ばれることを、なにもしないで、ただ死んでるみたいに、待ってなきゃいけないの?』

 

恋愛において、女性から積極的に行動することに否定的な方は男女ともに多いと思います。

 

自分の意見を言うことは本来怖いことです。でも、言わなければ対等な関係は築けません。自分は何が好きで何をしたいと思っているか、それを伝えることではじめて人間関係がスタートします。

 

 

自分の食べたいものを自分で選ぶ、自分の好きな人に尽くす。単純なことのように思えますが、子どもの時には考えなくてもできたことが、いま難しいのは何故でしょうか