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【わたしはまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?】『蜜蜂と遠雷』/恩田陸 レビュー

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ハマりすぎて勢いでストリートピアノデビューまでしてしまったピアノ好きの1人として

直木賞本屋大賞をW受賞した 恩田陸さんの長編小説

蜜蜂と遠雷』を紹介します

 

 

あらすじ

国際ピアノコンクールに集められた個性あふれる4人のコンテスタント。それぞれ音楽との葛藤を超えて、互いに影響を及ぼし、成長する物語です。

 

魅力①個性豊かなキャラクター

蜜蜂と遠雷』では4人のコンテスタントが物語の主軸となります。それぞれ違った環境で才能を育んだ魅力的なピアニストたちです。

 

幼くして名声を得た天才少女・栄伝亜夜(えいでんあや)、

 

養蜂家の父を持つ自然児・風間塵(かざまじん)、

 

優れた才能と恵まれたスター性のマサル・カルロス、

 

楽器店に勤めながら生活者の音楽を追求する高島明石(たかしまあかし)。

 

 

コンクール中はお互いがライバルではありますが、演奏のたびに影響を受けて音楽が進化していきます。

 

魅力②才能の対比


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異色の天才・風間塵

この物語のキーマンとなるのが風間塵という少年です。

 

彼は英才教育を施されたお坊ちゃまではなく、家にピアノもないという環境です。

 

 

しかし、だれよりも自然とピアノに向き合い、難しい曲も即興演奏のように演奏します。

 

コンクールという環境上その演奏は波紋を呼びますが、審査員や会場にいる観客・コンテスタントに及ぼす影響は絶大でした。

 

亜夜は塵を「神様に愛されている」と表現していますが、塵を通して亜夜もかつて神様と遊ぶようにピアノを弾いていた自分を思い出します。

 


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葛藤するサラリーマンピアニスト・高島明石

高島明石は働きながらピアノコンクールに応募した年長組で、これが最後の挑戦と決めて参加しています。

 

彼は

「生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか、」

 

というテーマをもって演奏に取り組んでいます。

 

メインキャラクターの中で亜夜、塵、マサルは幼いころから才能を見出された天才です。

 

その中に明石という一度は夢を諦めかけた人物が入ることで、より一層、読者に「才能とはなにか?」を考えさせるストーリーになっています。

 

 

魅力③映画を観ることでより一層イメージが膨らむ

音楽を題材にしているのでこの小説を読むと、この曲はどういう曲なんだろう?と自然と興味がわくと思います。

 

映像化された『蜜蜂と遠雷』を観ると演奏シーンを通してどんな曲なのか知ることが出来ますしより一層キャラクターを身近に感じます。

 

特に風間塵役の鈴鹿央士(すずかおうじ)さんはよくこんな人見つけてきたなというくらいイメージ通りの役者さんで実写化によるギャップはほぼありませんでした。

 

調べてみたら鈴鹿央士さんは広瀬すずさんがスカウトした逸材で蜜蜂と遠雷がデビュー作だそうです。広瀬すず、すげえ

 

 


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作中の一文で

 

「技術は最低限の条件に過ぎない。音楽家になれる保証などどこにもない。運よくプロとしてデビューしても、続けられるとはかぎらない。彼らは幼いころから、いったいどれくらいの時間をあの黒い恐ろしい楽器と対面して費やしてきたことか。どれほど子供らしい楽しみを我慢し、親たちの期待を背負い込んできたことか。そして、彼らは誰もが自分が万雷の喝采を浴びる日を脳裡に夢見ているのだ。」

 

という文章があります。

確かに、音楽への道は狭く厳しく、投資した時間やお金に対して得るものは少ないのかもしれません。

 

かつてのピアノ少年・少女たちに読んでほしい


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わたしも6歳から中3までピアノを習っていました。

 

自分の指先から紡ぎだされる音楽がひたすらうれしかったあの感情。

 

そしてコンクールに出た時の、しーんと静まった会場で鍵盤の上に手を置くあの瞬間。

 

そういう忘れていたピアノとの思い出をこの『蜜蜂と遠雷』を読んで思い起こされました。

 

ピアノは最も演奏者が多い楽器の一つではないでしょうか。

 

読んだ後、もう一度鍵盤の前に座りたいと思うはずです。